2017.09.01

海の何を知りたいの?「フグ毒のふしぎを解明して安全なフグを」

 おなかを大きくふくらますかわいいフグ。縄文時代から食べられてきたなじみのある魚です。しかしフグには毒があり,食べることを禁止されていた時代もありました。この毒はフグ毒とよばれていますが,フグがつくっているのではありません。フグはエサと一緒に,微生物がつくり出した毒を取りこみ,肝臓や卵巣に溜めこんでいるのです。しかしふしぎなことに,フグ自身もフグ毒を注射されるとしびれてしまいます。なぜフグは自分をも危険にさらす毒を積極的に取りこみ,からだの中に溜めることができるのでしょうか。

 「なじみのある海の生き物でも意外にもわかっていないことが多い」。そう語る東京海洋大学の長島裕二さんは,フグ毒が卵巣の中にある卵黄タンパク質と結合することで無毒化されることを最近明らかにしました。このタンパク質は毒を取りこむ肝臓でつくられ,卵巣に運ばれるので,このときフグ毒を無毒化しているのではないかと予想しています。しかし,「頭の中ではフグの毒化をジグソーパズルの全体像としてイメージできているが,すべてを明らかにするにはまだまだピースが足りないのです」と長島さん。いろいろな角度から研究を見る必要があると言います。

 フグの毒化のしくみを解明できればフグを安全に食べることにつながります。また毒と薬は紙一重と言われるように,からだに悪いものでも少量であれば良い効果をもたらすことがあります。「フグ毒でも同じ」と長島さん。神経を麻痺させるフグ毒を痛み止めや鎮静剤に利用しようという研究も進められています。視点を変えれば有効活用できる幅が広がるかもしれません。何気なく見ていた海の中を視点を変えて見てみたら大発見につながるかもしれませんね。

(文・新庄 晃太郎)

取材協力:東京海洋大学 海洋生命科学部食品生産科学科

教授 長島 裕二さん

海と日本PROJECT
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