2017.06.01

海の何を知りたいの?「変な海の生きものたちの真の姿が見えてきた!」

 少しずつ暑くなってきました。夏休みには海水浴に行く人もいるかもしれません。海の 中に潜るとさまざまな生きものが見つかるでしょう。しかし,広い海の中を泳ぎ回る生きものたちがどんな生活をしているのかを観察して明らかにすることはなかなか難しいですね。 そこで,特殊な記録計を生きものに取り付けその行動を記録する「バイオロギング」という方法で,海の生きものたちのリアルな生活を明らかにしようという研究が進んでいます。

 記録計のデータを手に入れるには,あらかじめ記録計を取り付けた生きものを再捕獲すればよいのですが,海の生きものたちはそう都合よく再捕獲できるわけではありません。 そこで,国立極地研究所の渡辺佑基さんは,タイマーで自動的に生きものから切り離される記録計を開発しました。切り離されて海に浮かんだ記録計だけを,電波を頼りに探し回収するのです。記録計には,深度や温度,加速度が測定できるセンサーやカメラが搭載され,生きものの行動が詳細に記録されます。

 渡辺さんはこの記録計を用いて,2015 年には体温の高いサメが速く泳ぐことを明らかに しました。変温動物である魚類の多くは海水温と同程度の体温ですが,マグロや一部のサ メは海水より体温が高いことが知られていました。体温を上げるとエネルギーを余計に使ってしまうにもかかわらず,なぜそのような性質を獲得してきたのかは長らくなぞでした。そこで,これまで集めたデータを体温と回遊範囲という視点でとらえ直してみると,体温が高いサメは,泳ぐ速さと回遊する温度帯が 2 〜 3 倍も速く広いという関係性が見えてきたのです。生息範囲を広げることで,獲物に出会う確率を上げるとともに,捕獲できる生物種を広げていると考えられます。

 渡辺さんが研究対象を選ぶ際には「変な」特徴のある種に注目します。「あえて普通では ない特徴をもつからには,そこに理由があるはず」。同じサメでも体温以外に視点を移せば,動きが遅いニシオンデンザメや捕獲するとすぐ死んでしまうシュモクザメなど,変な海の生きものはまだまだいます。彼らの行動をくわしく調べることで,その生きるための工夫を明らかにすることができるかもしれません。あなたなら,どんな海の生きものに記録計をつけたいですか。

(文・鈴木 るみ)

取材協力:国立極地研究所 生物圏研究グループ

准教授 渡辺佑基さん

海と日本PROJECT
このイベントは、海と日本PROJECTの
一環で実施しています
PAGE TOP