人工島と聞くと埋め立ててつくった島を思い浮かべるでしょうか?海洋空間の新たな利用のしかたとして,メガフロートと呼ばれる巨大な人工島を海に浮かべるための研究が行われています。メガフロートを含む水上に浮かべる構造物は「浮体」と呼ばれ,港でよく見られる浮き桟橋のほか,東京湾や大阪湾にある防災基地,最近では洋上風力発電所を海に浮かべることにも使われています。
海上に浮かぶ建造物をつくると想像してみてください。波によって揺れたり,流されたり,ときには転覆したり,地上につくるときとは別の課題を解決せねばなりません。特にメガフロートのような巨大な浮体は,船とも揺れ方が違います。浮体が長さ 1 kmで厚さわずか5 mと薄っぺらな場合もあり,布が風になびくように浮体自体が波打ちながら揺れてしまいます。横浜国立大学の村井基彦さんは,浮体の独特の揺れ方をシミュレーション計算することで,より適切な浮体の構造を知るための研究をしています。
揺れの原因となる波は,周期と方向と高さで表せます。その波の成分,浮体のかたちや大きさ,硬さなどから,揺れ方を予測できることはわかっているのですが,対象物があまりに大きいので実際に計算するにはいろいろと工夫が必要です。そこで村井さんは,独自の計算方法を開発。実験値とほぼ一致する結果を計算することに成功しました。この方法で,浮体のどの部分が何 m 上下して揺れるのかまでわかります。これにより,揺れを抑えるためにはどんな構造にすればよいかの設計に役立てられるのです。
実際につくることを考えたときには,単純に揺れないほどよい浮体というわけではありません。より安定した浮体をつくるにはコストや作業時間がかかります。人が住むのか一時的に立ち寄るのか,ものを置くだけなのか―利用目的によって異なる揺れの許容範囲を満たしながらも,コストとのバランスがとれる構造を考えます。また,波力発電所など,揺れを活用することを目的にする場合は,逆に揺れやすい構造を考えることもできるのです。利用目的に合わせて,浮体の揺れを設計できれば,海の空間利用の可能性はもっと広がるはず。「私たちの生活で陸上でなければならないものはほとんどありません」。陸上と同じように海上で暮らす未来を想像させる研究が進んでいます。
取材協力:横浜国立大学大学院 環境情報研究院
村井 基彦さん