2018.03.01

海の何を知りたいの?「重心をとらえて海の輸送の安全を守る」

 長方形の貨物を満載したコンテナ船を見たことはあるでしょうか? 島国の日本では,食料・雑貨など海外からの物資の輸出入の99.6%が船で行われています。港に着いた海上コンテナは,そのままトレーラーに載せられ各地へと運ばれます。港に着いてからも含めた海上貨物の輸送の安全を守るための研究が,東京海洋大学の渡邉豊さんにより行われています。

 巨大な海上コンテナを積んだトレーラーの事故原因の4 割を占めるのが「横転・転落」です。カーブするときにかかる遠心力によってバランスを崩し横転が起きます。横転するかどうかには,走行速度に伴い大きくなる遠心力の「大きさ」もですが,「力のかかる位置」が大きくかかわります。遠心力はコンテナの重さの中心「重心」にかかるので,重心位置が低ければ,ある程度大きな力がかかってもバランスは崩しません。しかし,重心が高いと少しの力でも簡単に横転します。重心位置によって横転に耐える限界速度が異なるのです。重心がわかれば,それに応じた速度を守れば横転を防げるのですが,コンテナのように,いろいろな密度や大きさのものがどう詰まっているかわからないものの重心を求めるのは簡単ではありません。

 一方,貨物船の世界では,各貨物の量や積載位置があらかじめ決まっているので,そこから簡単に重心を割り出しています。重心から船の揺れを計算し,どれくらいの波や遠心力に耐えられるか予測してから出航するのです。渡邉さんは,この船での常識とは逆の発想で,センサーで感知した「揺れ」をもとに,コンテナの中身を調べることなく重心を見つける方法を開発しました。すでにトレーラーの横転予防のために導入され始めています。さらに船の転覆防止への応用も進んでいます。船の重心は簡単に計算できるといいましたが,じつは航行中に刻々と変わります。たとえば,船が走るほど船底に積んだ燃料は減り,漁船なら魚を獲るほど船上の積載量が増えます。すると重心位置が上がり転覆しやすくなります。そこで,変化する重心を揺れから計算することで,その上がり過ぎを見張ろうというのです。より安全な海の輸送を実現するため,コンテナや船の複雑な重心をいかにとらえるかがカギになりそうです。

取材協力:東京海洋大学 流通情報工学部門

渡邉 豊さん

海と日本PROJECT
このイベントは、海と日本PROJECTの
一環で実施しています
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