背中を押した言葉「やってみたらいいよ」
研究を始めるきっかけは突然やってきた。田中さんは、学校の発表会で、ある生徒がカメレオンの研究を発表していた。夢中になって研究に取り組んでいる生徒の姿を見たとき、なんとなく自分も研究というものをやってみたい、きっとその先に何か得られるものがあると思ったと言う。しかし、研究なんてやったことがない。自分が果たして研究なんてできるのか。相談した先生に言われた一言、「やってみたらいいよ」。この言葉に背中をおされ、紹介されたマリンチャレンジプログラムに、仲間を集めて参加することにした。
自分の好きな場所で「テーマに出会う瞬間」がやってきた
研究をするといってもテーマは何にしたら良いのか。田中さんは、とにかく自分の好きなもの、好きな場所を見つめてみることにした。小さな頃から魚が好きで、よく水族館に通っていた。魚が水の中を泳いでいるのを、まるで魚が空を飛んでいるかのように見えて、良く眺めていたという。研究テーマを考えながら訪れたある日の水族館、トビハゼがコロン、コロンと転がっているのが目に入った。その時、水族館の人から「魚のなかには、右利き、左利きを持っていることもある」と聞いたことがあることを思い出し、田中さんは思った。「もしかして、このトビハゼの転がりにも、右利き、左利きがあるのかもしれない」。そこで、水族館の人に尋ねてみたところ、まだわかっていないということ。その瞬間、まだわかっていないことに魅力を感じ、何としてでも知りたくなったという。「わかっていないんだったら、自分で調べてみよう!」
未知だからこそ見えてくるもの
とにかく研究環境を整えないと何も始まらない。トビハゼ用の水槽、棲むための土や水・・・そして、トビハゼ。なにもなかった学校に、トビハゼ研究のための環境を自力で作りあげていった。そして、トビハゼの転がるタイミング、転がる方向、転がった場所、などデータをとれるものはすべて独自で作った記録用紙にしっかり書きとめていった。田中さんにとって、研究をしていてたまらない瞬間は、仮説をたててそれを検証し、それがまた新しい仮説へとつながっていくときだと言う。それは新しい発見につながっていくからだ。
「あらかじめ環境がそろっていないと研究なんてできないと思っていました。でも今では誰でも研究を楽しむことができるんだとわかりました!」目を輝かせてながら田中さんは語る。
将来も魚の行動学や生態学を研究していきたいとのこと。先生による「やってみたらいいよ」という、ちょっとした一言から始まった研究という名の「冒険」。彼女はこれからも未知の世界での新しい発見を楽しみながら、冒険を繰り広げ続けていくことだろう。