2018.09.01

海の何を知りたいの?「有孔虫を通してみる地球生命の進化の歴史」

 みなさんは有孔虫という生物を知っていますか?有孔虫とは、石灰質の球状の殻を持った単細胞性の海に住む動物プランクトンのことです。この生物のうち、海の表層深度0~100mに生息しているものを浮遊性有孔虫といいます。大きさは1 mm未満で、赤道域から極域まで世界中の海に全部で50種類ほど生息しています。中には藻類と共生しているものもいるといいます。さらに太古から生息しているため、過去や現在、未来の海洋環境を推測することができる生物です。しかしながら、その生態については多くがわかっていません。その原因のひとつに飼育の難しさがあります。東京大学の高木悠花さんはそんな様々な可能性を秘めつつも、研究の難しい有孔虫の生態の解明に挑んでいます。

 実は、高木さんは元々有孔虫の化石を用いて、生息深度や共生生態などの研究を進めていました。しかしながら、化石から得られる情報はあくまで推測でしかありません。生きている浮遊性有孔虫を飼育観察すれば、化石だけではわからない有孔虫の本来の姿を詳しく知ることができると考えた高木さんは、航海に出ることにしました。「実際に世界中の海に行ってみなければ、その環境の微妙な差異についてわからないし、その環境で有孔虫がどのように生きているかもわかりません」。いま飼育観察されている浮遊性有孔虫の種類はほんの一部に過ぎず、その中でも藻類を共生させるもの、させないもの、環境条件によって変化するものがいるといわれています。高木さんはそれらすべてを網羅的に調べることで、それぞれの環境への適応の仕方を少しずつ明らかにしています。

 有孔虫は大昔から世界中の海にいて、その生態を調べることのできる数少ない生物のひとつです。様々な生存戦略を取る浮遊性有孔虫が、どのような環境に生き抜き、どんな環境で絶滅していったのか。そして現在にはどんなものがいるのかを知ることで、生命の進化がわかるかもしれません。「地球のことを知りたいんです。」と高木さん。そのために大昔から地球の大半を占める海のいたるところに住む有孔虫に、高木さんは今後も向き合っていきます。             (文・滝野  翔大)

写真 浮遊性有孔虫   
取材先:東京大学大気海洋研究所 国際協力分野 学振特任研究員 高木 悠花さん
海と日本PROJECT
このイベントは、海と日本PROJECTの
一環で実施しています
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