私たちにとって身近なプラスチック。一度自然界に流出すると,生態系に悪影響を与えるということは多くの人が知っています。しかしそれらの影響について,実はまだ正確には分かっていません。海に流入しているプラスチックは年間約800万トンになるといわれています。その発生源はプラスチックごみだけではなく,マイクロビーズやメラミンスポンジなど,私たちがごみとは認識していないものまで含まれています。これらは海流によって世界中の海に広がります。そして紫外線の影響で,劣化,細分化し,5mm以下になったものがマイクロプラスチックと呼ばれます。この状態になると海鳥などの首に絡まったりすることはありませんが,有害な化学物質を吸着しやすくなります。東京農工大学の高田秀重さんは海洋プラスチックが生態系に与える影響を化学的に調べています。
「プラスチックに含まれる添加剤や吸着した有害化学物質は生物の体内に入ると脂肪に蓄積されます。実験室レベルではこれらの物質を高濃度で脂肪に蓄積させると,肝機能障害などが引き起こされる事が分かっていますが,自然界でその影響はまだ確認されていません。ただし安心はできません。世界中の海で全ての化学物質や生物への影響が調べられているわけではないので,まだ明らかになっていない問題があるかもしれません。」と語る高田さん。この解決のために「インターナショナルペレットウォッチング」という活動を始め,世界各地をモニタリングしています。この活動では世界中のボランティアが,漂着したレジンペレットと呼ばれる小粒のプラスチックを集め,高田さんのもとに送ります。届いたサンプルに付着している物質の成分や濃度を高田さんが分析し,その結果が世界中に発信されるというものです。「有害物質の種類や量,分布を伝える事で,多くの人が現状を理解できる。この事が日々の生活を少しずつ変えるきっかけになるのではないか」と高田さんは考えています。
「海のまだ汚れていない場所がまだどれくらい残っているかを知りたい」と高田さん。一見きれいに見える場所でも,水質や浮遊物を分析すると人間の汚染の痕跡が見えてきます。ゴミを拾って形状別に分け,どういった場所にどれくらいあるのか,素材は何か,破片から元の製品を予想してみることで,海で何が起きているのかが見えてくるそうです。私たちに恩恵を与えてくれている海。海の現状を知ることで取り組むべき課題や解決の糸口が見えてくるでしょう。見えないものを科学の力で見えるようにし,広大な海に屈することなく世界中の人々とともに高田さんの挑戦は続きます。
(文・滝野 翔大)
取材先:東京農工大学農学部
教授 高田 秀重さん