海と陸が接する沿岸域では,コンクリートを使って防波堤や埋立地が整備されています。しかし,こうした開発によって環境が変化し,海の生き物の居場所が失われつつあります。そのため「コンクリートは自然破壊の象徴」というイメージが抱かれてきました。
徳島大学の中西敬さんは,海洋環境の修復をテーマに研究を行っています。もともと橋の基礎工事や消波ブロックの設置といった海洋土木を専門としていたため,コンクリートは人間社会にとって必要不可欠であり,悪者ではないと考えていました。しかし,実際に海の環境が変わっていくのを目の当たりにする中で,両者を共存させることで,「子どもの頃に見た海の風景を取り戻したい」という想いを募らせていたのです。そんな中,中西さんが顧問をしていた日建工学株式会社と味の素株式会社,徳島大学との共同研究によって,「環境活性コンクリート」という新たな材料が開発されることになりました。
環境活性コンクリートは,アミノ酸を含むことから「アミノ酸コンクリート(別名:アミコン)」とも呼ばれています。中西さんらは,10 数種類のアミノ酸とコンクリートの相性を研究し,アルギニンが最適であることを見出しました。コンクリートは強アルカリ性なので,酸性のアミノ酸では強度を阻害してしまいます。しかし,アルギニンはアルカリ性のため,コンクリートの強度を落とさずに混合できるのです。
消波ブロックや防波堤にこのアミコンを使用すると,表面から藻類の栄養源となるアル ギニンがゆっくりと海中に溶け出します。その結果,アミコンの表面にはたくさんの微細藻類が育ち,その周辺には藻類をエサとする魚たちが集まってきました。
現在,この環境活性コンクリートは全国 200 か所以上に設置されています。川にはアユやウナギが, 沼にはエビが……。アミコンの周りには,新たな生態系がつくられつつあります。人の手による開発が 自然環境を維持するという,開発と環境保全の共存関係が築かれ始めているのです。
(文・高橋 力也)
取材協力:徳島大学 環境防災研究センター 客員教授 中西敬さん
写真提供:日建工学株式会社