小学 4 年生の頃から,クラゲを採集しては飼育する毎日だった杉本くん。生き物を大切に飼育する中で培われた観察眼で、2018 年の夏に見事新種のクラゲを発見し、2019 年には国際学会で最優秀学生ポスター賞を受賞しました。そんな海よりも深くクラゲを愛する彼が将来目指すのはクラゲの研究者。研究者になるためにはどんな視点や考え方が必要なのか、新たな挑戦が始まっています。
始まりは刺激的な痛みから
幼いころから海の生き物が好きだった杉本くん。そんな彼の人生を大きく変化させたのは、小学4年生の時に参加した博物館が主催した海藻の観察会でした。いつもの様に、近くの海で磯採集をしていると、海から青いコンタクトレンズのような物がたくさん流れてきたのです。不思議に思い手を伸ばしたその瞬間、手に痛みが走り、それがたただの物ではない事に気がつきました。これが杉本くんのクラゲとの出会いでした。
その後は奇妙な見た目に魅了され、気が付けばクラゲの飼育を始めました。「近くの図書館にあるクラゲに関連する本の貸し出し履歴が、自分の名前でいっぱいになるほど読み漁りました」と杉本くんは楽しそうに語ります。そんな観察と飼育を続ける日々の中で、将来は研究者になりたいという気持ちが生まれてきました。「そのためには飼育観察だけでなく、世の中の課題を知り、研究活動として経験することが重要だ」。こうして杉本くんの研究が始まりました。
クラゲとどう向き合うべきか?
杉本くんは現在、クラゲの大量発生抑制に関する研究を進めています。クラゲの大量発生による被害は漁網の破損を始め、発電所の取水口の詰まり、漁業被害など、近年世界中で報告されています。しかし、彼らがなぜ大量発生するのか、どうすれば彼らとうまく付き合えるのか、根本的な解決策が見つかっていません。そこで杉本くんはクラゲの生活史に着目し、クラゲの発生に必要な漁港などの岸壁の素材にどのような工夫をすれば付着しにくくなるのか研究することにしました。
けれども杉本くんにとっては、クラゲは大好きな生き物です。「研究を進めていく中で最も悩んだのは、自分の大好きなクラゲを世の中から減らす方法を考えているということです」。海にクラゲが増えれば、むしろ出会える確率が上がります。自分だけの視点で考えれば、減らす必要は全くありません。研究開始当初は、多くの葛藤を抱えました。しかし研究を進めるうち、「自分が大好きなクラゲを、1人でも多くの人に興味を持ってもらうための1つの切り口として研究を進めたい」。そう考えるようになりました。
気質に付着したポリプを観察する杉本くんの様子 右図中央に確認できるのがクラゲのポリプ |
未来のクラゲストになるために
いつかは研究者となって、未だ飼育が難しいクラゲの飼育技術を確立したり、謎の多いクラゲのライフサイクルの解明をしたい。杉本くんは目を輝かせながら将来について語ります。
初めは採集した個体を傷つけてしまい、ゆっくり観察できるほど維持することさえ難しかったクラゲ飼育。しかし強い情熱をもって取り組んだ結果、長期の飼育が可能になり、研究ができるまでになりました。諦めずに試行錯誤し、できることを少しずつ増やす。小さくても確かな一歩が、杉本くんと将来の夢との距離を近づけてゆきます。