福島成蹊高等学校では、汚染水処理をテーマとした研究を毎年引き継いできました。今年はイシクラゲという藻類に着目した研究。先輩たちも巻き込みながら、その意志を受け継いで研究を進める彼らの想いに迫ります。
不思議な生態、イシクラゲ
「なんだ、この不思議な生き物は?」部活で行ったフィールド調査で、彼らは“イシクラゲ”という藻類に出会いました。ふよふよとした、海藻のようなもの。この藻類は強い乾燥耐性や、体積の約30倍もの水を吸うことができるという吸水能力があること、そしてストロンチウムやセシウムを細胞内外に蓄積する性質を持つことを先輩と実験を重ねるうちに知っていきました。そんな中で、「イシクラゲの性質を利用すれば、汚染水の処理に活用できるかもしれない」と可能性を感じ、研究をスタートしたのです。
研究テーマは、身近な課題と想いから
イシクラゲの生態から汚染水処理問題につながるとは、常に東日本大震災による、原発事故の課題が頭の中にある彼らだからこその発想です。彼らの先輩たちも、実はミカヅキモやシャジクモ、ミルフラスコモといった他の藻類で汚染水処理を目指す研究も行っていました。それらもあわせて、今年は自分たちで「藻類を活用した汚染水処理システム」を考案し、すでに大学に進学した先輩たちも巻き込んで研究を進めてきました。このシステムは4段になっており、それぞれの段でさまざまな重金属を取り除いていき、最終的に水分を大気放出する、というものです。
根本さんたちは今回特に、4段目のイシクラゲの段について詳細に研究。水の消失量の効率が高くなるのはどの光条件のときなのか。光の種類や光量のちがいで、水の消失量に変化が出るのではないかと考え、様々な条件を設定してひとつひとつ着実に検証を進めました。「青色LEDで、照射距離を短くした際に、消失量が大きく増加することを発見したときは、汚染水問題の解決に1歩近づけたことを実感でき、とても嬉しかったです」と根本さんらは話します。
左図:水分吸収前後のイシクラゲ の様子 右図:これまでの藻類研究を活用し考えられる、汚染水処理システムの概要 |
汚染水を安全に処理する未来に向けて
「タイムリミットが近づいているから、早く装置を実現させたいです」と事あるごとに熱弁する2人。彼らの話すタイムリミットとは、海洋放出による汚染水処理が実施される日のこと。残り2年で汚染水を置く場所がなくなるといわれており、海洋放出はもう間近に迫っています。濃度が低くても、海へ流されてしまえば、安心して福島の海産物を食べたり、海水浴ができなくなったりなど多くの問題が残るため、それを防ぎたいのです。
これまでチームで協力しながら藻類の可能性を最大限に引き出す研究に取り組んできましたが、まだまだ彼らにとっては道半ば。大きな課題を胸にし、藻類の可能性を信じた研究者たちの挑戦は続きます。