ディスカッションの中で見出した新たな仮説。そこで見つけたのはほとんど誰も研究していない研究領域でした。難しい研究に取り組むにつれて世界を見る目が変わっていった高校生研究者の姿を御覧ください。
ディスカッションから見つけた「進化」の仮説
白陵中学校・高等学校の生物部には、継続して寄生虫の研究をしている「寄生虫班」という、ユニークなグループがあります。研究対象としているのは「単生類」という、主に魚類の体表に住む寄生虫。単生類は決まった魚にしか寄生しない「宿主特異性」が高い種として知られています。ある学会でのディスカッションをきっかけに「寄生虫は、宿主となる魚と一緒に進化しながら寄生しているのではないか?」というオリジナルの仮説を見出しました。これまで単生類の進化の過程を明らかにする系統解析の研究は、主に外見の観察から行う形態学的な手法で行われてきました。しかし近年主流であるDNAの塩基配列から解析する分子系統学的な研究はほとんど行われていない、いわば研究の空白地を見つけたのです。
むずかしい・わからないから研究は楽しい
研究がほとんどされていないのには理由がありました。分子系統学的な解析は、観察による系統学的解析とセットで行うのが一般的ですが、それには小さな体の形の違いはもちろん、体内の筋肉の繊維の密度など、顕微鏡を使った細かな観察が必要だからです。「本当に最初は何も見えませんでした。先輩に教えてもらいながら観察を続け、ようやく構造が見えるようになってきた、それくらい小さいんです。」と西尾さんは話します。分子系統解析では、DNAの増幅操作をマニュアル通り行っても成功しないことが多々あり、何回も実験をしたといいます。苦労の末に得られたデータについてディスカッションする時間は研究の醍醐味、楽しい時間だったと振り返ります。
左図:スケッチした寄生虫 右図:実際に発見した寄生虫の写真 |
研究で手に入れた、新しい視野
マリンチャレンジプログラムで学んだ大切なことは「専門外の人に、わかりやすく研究を伝える」ことの難しさ。当たり前のように扱ってきた生き物や単語が、一般の人には馴染みがない専門用語だったということに改めて気付かされたといいます。また、研究は普段の生活の景色も変えました。「中学生になるまでは寄生虫なんてほとんど知りませんでしたが、今では魚を見るとつい寄生虫のことを考えてしまいます。研究を通して、見える世界が変わってきました」と西尾さん。将来は、部活での経験を活かして、生物に関わる研究をしたいと考えながら、目下研究に邁進中。研究で得た広い視野で、次にどんな世界を見つけるのか、本当に楽しみです。