ハクセンシオマネキは河口域に生息している砂ガニの仲間。都市部では護岸工事や家庭排水ですみかが減っているとされており、2006年からは絶滅危惧種となっています。しかし、黒木さんらが近くの海岸で目にしたのは、白い石のような小さなモノが一斉に動き出す瞬間でした。
浜辺で起こる白いウェーブ
「これが全部、ハクセンシオマネキ!」絶滅危惧種とされるハクセンシオマネキが、浜辺いっぱいにいたことに驚いたと振り返る黒木さん。宮崎の干潟や熊本天草にはまだ多くのハクセンシオマネキが生息しているのです。
ハクセンシオマネキは、1〜2cmととても小さく白い体をもっています。普段は砂に穴を掘って生活していますが、繁殖期を迎えて交尾の準備ができたメスは、自分の巣穴を離れて放浪します。一方のオスは、放浪しているメスを見つけると「求愛」を始め、自分の巣穴に誘います。このときオスは片方だけの大きなハサミを楕円形を描くように動かしながらアピールします。
ウェービングと呼ばれるこの求愛行動に注目した黒木さんらは、干潟にビデオカメラを設置してハクセンシオマネキの行動を撮影記録することにしました。
独自の行動解析プログラムを開発!
観察をしているとハサミを振って求愛をしても、成功するオスとふられてしまうオスがいることに気が付きました。でも、私たちの目では振られるオスの何がいけないのかわかりません。メスが何を基準にオスを選んでいるのか、小さなカニのハサミの振り方をくわしく調べるために、ハサミの動きを自動で解析できる自作のツールを開発することにしました。「名付けてProgram-UCA (PUCA)です。フーリエ変換を使って、切り出した画像データからカニの特徴的な行動を抽出できるようにしました。これを使えば早く、正確に研究を進めることができます」。これによりカニの行動を円の面積で数値化してハサミの動きを解析したり、カニの移動を自動追尾できるようになりました。PUCAを使った解析結果からは、メスとオスのアピール時の位置関係やはさみを振るリズムについて新たな発見が生まれてきました。
求愛をしているオスとメスの距離を測定している様子
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小さな体に詰まった不思議
「ハクセンシオマネキの小さな体に詰まっているたくさんの不思議を解き明かしていく過程は、とても楽しいです。」と話す黒木さんら。目で見ているだけではわからなかったことが、定量化したりデータを蓄積していくことで少しずつ明らかになっています。「もっとデータを増やしていけば求愛成功の規則性が見えてくると期待しています。しかもメスは、その違いをなんらかの形できちんと捉えているんです」。今後は、縄張りなど他の社会性行動についても解析していきたいと話します。愛らしいカニたちの浜辺の営みが次第に明らかになっていくかもしれません。