漁業資源の維持管理が国際的に重要視されるなか、養殖漁業は今後も一層盛んとなっていくと考えられます。養殖魚の飼料として使われる魚粉は価格が高騰しており、世界では魚粉の代替品として昆虫を用いた餌の検討が進んでいます。
漁業と林業を同時に救う
「だったら、シロアリを魚粉の代わりに活用できないだろうか」。清風学園生物部では森林の整備活動を行っており、生徒たちはその際にたくさんの間伐材が有効利用されずに放置されている現状を目の当たりにしていました。漁業と林業の両方の課題を同時に解決できるアイデアとして、間伐材を分解してエネルギー生産を行う、高タンパク質なシロアリに注目したのです。
横川さんらが今回最初に取り組んだのは、シロアリを効率的に増殖させる方法の検討です。最初は間伐材での飼育を試みましたが、カビが生えたり観察がしにくかったりと課題が見えてきました。そこで、材の形状を変えるなど方法を工夫して新たに検証することにしました。研究に使うシロアリは自分たちで裏山から採取。そして、約2000匹のシロアリの飼育を開始したのです。
試行錯誤を糧に
ところが、シロアリを増殖させるはずが上手くいかず、一時的に数が減ってしまったりもしました。そこで飼育の条件を振って、増殖効率のよい個体数や密度を明らかにしました。同時に、増殖させたシロアリを実際に魚に与え、餌として使えるかどうかの検証も進めました。そのためには魚の飼育装置が必要です。「でも実際に調べてみるとすごく高くて。そこで、安価な装置を手作りするところも自分たちの手でやってみることにしました」と横川くん。約120万円相当の飼育装置を約6万円で開発することに成功しました。研究に用いる魚種は先輩たちが使っていたコワキンからゼブラフィッシュに変更。必要な餌の量を減らすことで仮説検証に必要な試行数を確保できるように工夫しました。「新しい実験をしようとすると必ずと行っていいほど課題にぶつかりますが、チームで話し合いながら乗り越えています」。
左図:シロアリ飼育の様子 右図:シロアリを含んだ餌を活用した給餌実験の様子 |
シロアリの可能性を追求する
飼料としての可能性を追求するうえで、シロアリの成分分析も進めています。「シロアリの脂質成分を抽出して分析すると魚の餌としてはやや多いことがわかりました。過剰なオイルは別の用途に活用することで、無駄なく利用できるのではと考えています」。今年の研究成果からは、シロアリが魚の餌として使える可能性が見えてきました。検証すべき点はまだまだありますが、課題を着実にクリアしながらデータを蓄積しています。現在は、研究機関の専門家や企業ともディスカッションの機会を得るなどして、実用化に向けた検討も進めています。近い将来、シロアリを使った飼料があたりまえに使われる日がやって来るかもしれません。