◆黒木さんはどうしてこの研究を始めたのですか。
ハクセンシオマネキは繁殖期を迎えると,オスは片方だけの大きなハサミを楕円形を描くように動かしながらメスにアピールする求愛ダンスを行います。この行動を観察していると,成功するオスとフラれるオスがいることはわかったのですが,彼らのダンスの違いはわかりませんでした。そこで干潟にビデオカメラを設置してこの行動を撮影。この行動を数値データ化するものがなかったので,その映像を行動解析するソフトを自作することで,カニの特徴的な行動を抽出できるようにしました。
◆なぜ画像解析を研究に取り入れたんですか?
カニたちの行動に関する膨大な量のデータを手作業で処理するのは,すごく大変なんです。そんな中,データサイエンスの授業で習った数値解析ソフトウェアを活用すれば,楽になるのではと考えました。実際ハクセンシオマネキは白いので,茶色い干潟とのコントラストで個体識別も簡単でした。はじめは一からプログラミングを学ばなければいけなかったので大変でしたが,生物の行動がデータとして見えるようになると,次第に楽しくなっていきました。動画を解析した結果,モテるカニは休みなく求愛ダンスを続けていることがわかったのです。肉眼ではわからなかったカニのダンスのモテ方の違いがデータで見えたときは感動しました。
◆黒木さんは今後どのようなことに挑戦していきたいですか?
自分たちが開発したソフトは,生き物の行動を解析することにも使えると思います。しかし私は,他の生物を調べるよりは,しばらくはハクセンシオマネキに集中したいです。求愛ダンスがうまくいったカニが,その後巣の中に入ったあとでフラれることも見たことがあります。また,宮崎ではまだ多くの個体が観察できるハクセンシオマネキですが,絶滅危惧種になっていることもあり,他の地域ではその行動研究もされてはいません。もしかすると地域によって彼らのダンス
のリズムは異なるかもしれません。まだまだこのカニの行動についてはわからないことが多いので,もっと深くその行動について突き詰めていきたいと思います。
黒木さんは「生き物の行動を深く観察し,法則を見つけ出すスペシャリスト」
黒木さんがはじめて研究に挑戦したのは,小学3年生。アリが餌を探すのにどれくらい時間がかかるのかを調べ,グラ
フなどにまとめていました。そのころから生物の行動に法則があるかどうか探っていた黒木さん。将来彼女の観察によって,生き物の新たな秘密を明らかにするかもしれません。