研究テーマ名:ヘドロを用いたアマモ実生苗確立の基礎的研究~熊本豪雨災害からの復興~
研究代表者:出水 怜哉
研究代表者所属校:熊本県立芦北高等学校
受賞:リバネス賞
芦北高校では2003年から地元の漁師さんと協力し、継続してアマモ場の再生に取り組んできました。しかし、取り組みの開始時から30倍にまでアマモ場が拡大してきた2020年、夏に起こった熊本豪雨災害によってアマモ場の大部分が消失してしまったのです。アマモ場の復興を目指して、出水怜哉さんたちの挑戦が始まります。
歴史あるアマモ場を途絶えさせない
アマモは、植物として二酸化炭素や栄養塩を吸収したり、海の生物の産卵や生育の場にもなり、「海のゆりかご」として知られています。芦北高校は、2002年から地元の漁業協同組合と連携して芦北湾のアマモ場の再生・拡大に取り組んできました。しかし、2020年7月に起こった熊本豪雨災害によって、それまで拡大してきたアマモ場が、面積にして3分の2も失われてしまったのです。さらには、アマモが消失した海域には、河川から流れ出た土砂が「ヘドロ」として堆積し、これまでと同じ方法でアマモ場を再生していくことは簡単ではありませんでした。難しい現実に直面した出水さんたちですが、逆にヘドロを活用してアマモを育てられるのではないかと考え、研究を開始することにしました。
アマモ栽培にヘドロは有効か?
ヘドロはもともとは河川の上流から運ばれてきたもの。山の落ち葉など有機物を多く含み、栄養成分が豊富でアマモの栽培にも使えるのではないか。これが出水さんたちの仮説です。しかし、実際のフィールドではヘドロは簡単に巻き上がり、アマモの生育はおろか実験すら行うのは困難でした。そこで、ヘドロを学校に持ち帰り、アマモの発芽・生育が可能かどうか実験室の水槽内で検証を進めることにしました。水温や光量に注目し、アマモの種子から発芽・生育に適した条件を検討した結果、ついにヘドロにおいても発芽・生育が可能な条件を見出したのです。さらには、サンゴ砂で栽培したアマモと比較し、ヘドロで栽培したアマモは3倍の草丈に成長するという結果も得られました。ヘドロはアマモの栽培に十分活用できることがわかったのです。
芦北の復興に関わり続ける
出水さんたちの研究はこれで終わりません。実験室の水槽でヘドロから育てたアマモの苗を、実際のフィールドに移植する実験も行いました。そしてこの移植したアマモの観察から、生存率を高めるためには、移植する苗をある程度まで水槽で生育させる必要があることを突き止めました。種子の発芽から、実際のフィールドに移植して根付かせるところまで、堆積ヘドロを活用した新しいアマモの栽培方法を確立したのです。「高校を卒業しても、芦北湾のアマモ場の復興に向けて今後も取り組みを続けていきたい。そして将来は、地元の行政に就職して、芦北町の復興などに関わっていきたい」と、今後の意気込みを語る出水さんの地元に寄り添う取り組みはまだまだ続きます。