2021.12.01

住民と生き物のどちらにも優しい河川工事を提案する(新川 美空 さんらのチーム)

大分県立日田高等学校 、新川 美空 さん、諌山 実央 さん、川津 稜大 さん、古後 遥 さん、帆足 隼 さん

大分県日田市を流れる城内川をフィールドに、地元高校生たちが精力的な活動を続けている。日田高校の新川美空さんらが数年に渡って取り組むのは「タナゴと二枚貝類の分布と工事の影響」についての調査だ。

地元の希少生物を守りたい
「日本固有のタナゴは環境省のレッドリストに掲載されていることを知り、地元のタナゴ類を守りたいと思いました」と話す彼女らは、二枚貝とタナゴの生息状況を調査し、貴重な水生生物の保護へとつなげることを目的に、研究に取り組んでいる。授業の一環で、自分達の住む日田市の生き物の分布状況を調べていると、日田市にはタナゴ類が生息していることを知った。タナゴ類の特徴は、その独特の産卵のしかたにある。二枚貝類の中に産卵管を直接挿入して、卵を産み付けるのだ。タナゴの繁殖には二枚貝の存在が不可欠。二枚貝も分布拡大にこの魚を利用しており、
互いに共生関係にあるとされる。この2種類の生物の興味深い共生のしくみに興味をもったメンバーは、市内を流れる城内川の生物の生息状況を調べることにした。

住民の声をたどって進む
城内川の全6か所を調査地点とし、ビンドウを設置して調査を実施。その結果イトモロコ、ドンコなどの生き物たちを確認した。また、ヤリタナゴやアブラボテなどのタナゴ類、ササノハガイやマツガサガイなどの二枚貝も確かに生息していることがわかった。しかし、地元の人たちによると最近タナゴや二枚貝の数が減少しているという。城内川では、今から8年前の2012年に起きた九州北部豪雨の影響で、河川工事が行われている。どうやら、その後から河川内の二枚貝とタナゴが減ってきたというのだ。しかし、当時の河川の生物生息状況の記録は残っておらず、メンバーらは地域住民にヒアリングを重ねながら現在の河川の状況を明らかにしていこうと試みた。調査を進めていると、奇しくも2021年3月に同様の河川工事が実施されることになった。

伝えることで意識を変える
河川工事の前後で同様の調査を行い、工事の影響を比較。また、その地点の流速、水深、砂の深さなどを測定して、生物分布との関係性を考察した。データ数が少ないため確かなことは言えないが、確認できた生物の数は事実減少傾向にあった。「河川工事により水が干上がり、二枚貝のすみかである川底の砂を除去したことで、タナゴと二枚貝の減少につながったのではないかと考えています」。生態系を元の状態に戻すのは時間がかかる。「地域を流れる小さな河川にも貴重な魚や貝が生息していることを地元の人に知ってもらいたい。」と話すメンバーらは、今後は調査だけでなく、住民にも川に棲む生き物にも優しい河川工事を提案していこうと考えている。自治体や工事関係者、地元住民とコミュニケーションしながら、この挑戦を少しずつ前に進めていく。

(教育応援vol.52 躍動する中高生研究者 より)

海と日本PROJECT
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